2024年8月、南海トラフ地震の予兆とも思われる地震が2度発生しました。
そこから、南海トラフ地震が「人工地震」であるという情報がインターネット上で拡散され、不安を煽っています。
しかし、この情報は科学的な根拠に基づいたものなのでしょうか?
今回は、南海トラフ地震の人工地震説について、本当なのか?デマなのか?
その真相を徹底検証していきます。
南海トラフ地震は人工地震なのか?
結論から言うと、南海トラフ地震が人工地震であるという説には、私が調べた限りでは科学的な根拠と、信憑性ある情報は見つかりませんでした。
南海トラフ地震は、プレートテクトニクス理論に基づいて説明される自然現象だと言われています。
プレートテクトニクス理論
地球の表面は、十数枚のプレートと呼ばれる巨大な岩盤で覆われており、これらのプレートが互いに動いていることで、地震や火山活動などが引き起こされます。南海トラフ地震は、フィリピン海プレートがユーラシアプレートの下に沈み込むことで発生するプレート境界型地震です。
南海トラフ地震のような広範囲での巨大地震を人工的に発生させるには、プレート境界に極めて大きなエネルギーを加える必要がありますが、現在の技術レベルではそのようなことは不可能と考えられています。
過去にも起こった人工地震説
2022年3月16日、福島県沖を震源に発生したマグニチュード7.4の地震についてSNS上では「人工地震だ」という投稿があり、一時トレンド入りしましたが、2つの点から人工地震説が否定されています。
エネルギー不足による否定
その際に、地震のメカニズムに詳しい東京大学地震研究所の古村孝志教授は、地震のエネルギーに注目すると人工地震でないことはすぐわかると指摘していました。
「これだけ強い揺れを東北から関東にかけての広い範囲で起こそうと思うととてつもないエネルギーが必要で、例えば核実験でも全然エネルギーは足りません」
古村孝志教授 NHKによる取材
古村教授は、このようなコメントを残しています。
震源の深さにより否定
さらに、2022年のこの時は震源は深さ55~57キロメートルと言われており、強震動予測に詳しい防災科学技術研究所の藤原広行部門長は「震源の深さ」に注目して人工地震説を否定します。
「今回の震源は深さが57キロとされていますが、例えばこれだけ深い場所まで穴を掘ることは今の人類の技術では不可能です」
藤原広行部門長 NHKによる取材
海底掘削の記録は?
2021年、中国で海底掘削深度の世界記録を更新したという情報がありました。その深さは水深2000m超えで231mの海底掘削に成功したようです。
北京時間7日午後11時頃、湖南科技大学がリード役となり研究開発した中国初の海底大深孔保圧コア掘削機システム「海牛Ⅱ号」が、南中国海の水深2000メートル超で231メートルのコアを掘削し、世界の深海海底ドリル掘削深度の記録を更新した。
2021年4月9日 国立研究開発法人 科学技術振興機構
日本では、海底掘削の世界最深記録は日本の海洋研究開発機構の地球深部探査船「ちきゅう」が、紀伊半島沖で実施した掘削で、科学掘削としては世界最深の掘削深度記録を更新し、海底下3,262.5m(水深1,939m)まで到達しています。
この計画では、海底下5,200m付近までの掘削を計画しているようですが、それでも5,200mです。
2024年8月上旬に起こった南海トラフ地震の予兆とも思える2回の地震の深さは
2024年8月8日 震源地:宮崎県沖 震源の深さ 31キロ
2024年8月9日 震源地:神奈川県西部 震源の深さ 13キロ
深さの点から見ても、現代の技術では震源地となる深さに人工的な技術を用いて地震を発生させることは、不可能と言えそうですね。
そもそも人工地震とは?そのメカニズムと規模
人工地震とは、その名の通り、人間活動によって引き起こされる地震のことです。
例えば、ダム建設や地下核実験、大規模な資源採掘などによって、地盤に大きな力が加わり、地震が発生することがあります。
しかし、これらの人工地震の規模は、自然地震に比べて非常に小さいものだそうです。
USGS(アメリカ地質調査所)によると、最大級の人工地震でもマグニチュードは5〜6程度とされています。
核実験による地震も人工地震に含まれますが、その揺れの力は小さいもののようです。
過去に北朝鮮が地下核実験を行った際には、地震の規模に換算するとマグニチュード5前後の振動が観測されています。 東京大学地震研究所 古村孝志教授
なぜ人工地震説が広まるのか?その背景と問題点
では、なぜこのような科学的根拠のない人工地震説が広まってしまうのでしょうか?
その背景には、以下のような要因が考えられます。
不安の増大
南海トラフ地震は、甚大な被害をもたらす可能性があるため、人々の不安が増大しています。
この不安が、科学的に説明できない現象や不確かな情報を結びつけ、陰謀論的に解釈する傾向を生み出しているのかもしれません。
防災心理学が専門で、災害時に広がる誤った情報に詳しい兵庫県立大学の木村玲欧教授は、「何月何日に地震が起きる」とか「人工地震だ」といった情報は、大きな災害が起きた時に必ず出てくる「定番のデマ」だとして、拡散しないよう呼びかけています。 兵庫県立大学 木村玲欧教授
SNSの普及
インターネットやSNSの普及により、真偽不明な情報が瞬く間に拡散されやすくなっています。
人工的に起こした地震や津波の軍事利用を禁じる国際条約に触れた、「人工地震があり得ないと言う人は、この条約をどう思うのだろう」との投稿が約259万回表示され、多くのX利用者の目に触れた。投稿数の実態以上に影響力があったことがうかがえる。 朝日新聞デジタル
このような人工地震説は、人々に無用な混乱と不安を与え、防災意識の低下やパニックを引き起こす可能性があります。
また、専門家や政府機関への不信感を招き、防災対策への協力が得られにくくなることも懸念されます。
正しい情報を得るために
【報道発表】(R6.8.10)令和6年8月8日16時43分頃の日向灘の地震について(第3報)及び南海トラフ地震関連解説情報(第2号)について報道発表を行いました。#いのちとくらしをまもる防災減災https://t.co/Kvo4iQZeqi
— 気象庁 (@JMA_kishou) August 10, 2024
南海トラフ地震に関する情報は、気象庁や政府機関などの信頼できる情報源から入手しましょう。
また、情報を見聞きする際には、科学的な根拠があるかどうかを確認し、安易にデマを信じてしまわないように注意しましょう。
まとめ|デマに惑わされず、正しい知識で防災を
今回は、南海トラフ地震の人工地震説について、本当なのか?デマなのか?について迫ってみました。
人工地震であるという説は、調べる限りでは科学的根拠のないデマと言えるでしょう。
実際に人工地震説を唱えてSNSなどに投稿されている画像は、出所が不明で匿名による投稿ばかりでした。
デマとも思われる情報に惑わされることなく、正しい情報に基づいた防災対策を行いたいものです。
大切なのは、正しい知識を身につけること、そして、日頃から防災意識を高めておくことですので、日頃から知識をつけて防災意識を高めておきましょう。